Sunday, April 19, 2015

「高校演劇2万人アンケート」論文への感想以上レビュー未満。



文:カサハラリカ

先日,知り合いの方から面白いものを見せていただきました。
全国高校演劇協議会がデータを収集し分析した論文です。
本当にちらっと,ざざっと目を通しただけで,私の手元にはありません…。

率直に申し上げると,やっていることはとても面白いのに,その調査項目と分析内容がもったいない~!(><)

と思いながら拝読しました。

もう少ししてから,どうにかして原文を手に入れてきちっとしたレビューを書こうかとも思ったんですが,今後も調査される場合に多少お役に立てるのでは…と超超超図々しくも思い,記憶を頼りに“感想以上レビュー未満”をネットの世界に漂流させてみたいと思います。

ちなみにわたくしカサハラリカは,高校演劇の経験者。卒業してから5年以上経っているので,調査対象者外です。大学の卒業論文と大学院の修士論文で量的調査・質的調査を行い,統計ソフトSPSSを使用して心理学論文を執筆しました。なるべく科学的に,建設的にこの記事を書きたいと思います。


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「高校演劇2万人アンケート」のデータを使用した論文について(概要)

論文のタイトルすらしっかり覚えていなくて,それでいてこんな記事書いてしまってすみません…。今年の春に,このアンケートを実施された高校の先生(北海道の先生)が書かれた論文です。
この論文が扱っているデータは,インターネットで今年の3月末まで実施されていた「高校演劇2万人アンケート2014」から得られたものでした。(その前に実施されたデータも含まれていたようないなかったような…。)

<調査の目的>
  • 現役部員のみなさんが,演劇を通してどのような影響や変化をおよぼしているのか。また,卒業をしたみなさんが演劇と関わったことにより,どのような影響をうけ,変化したか。

  • 演劇活動の活性化や「表現教育」の効果を考えるための貴重なデータとして活用。
(全国高校演劇協議会webサイトより引用)

<対象>
その名の通り,高校の演劇部に所属する(していた)人を対象としたものです。現役の部員の方の他,既卒5年以内の方もOKだったようです。

<方法>
インターネットから回答する形式だったようです。

調査項目(とってもうろ覚えです…。すみません。調査期間が終了しているため,項目は論文でないと確認できません。)
  • 学年
  • 性別
  • 部内での役職
  • 公演回数
  • クラスでの自身の立ち位置
  • 部内での自身のふるまい
  • 部活を通して成長したこと
…みたいなものがあったと思います。どこまでが選択式の回答だとか,自由記述の有無は覚えていません。

分析方法
統計ソフトを使用。χ二乗検定が主。

結果と考察
  • 公演回数が年10回以上の群で,成長を感じたという回答が多い
  • クラスではおとなしい方だが部活では自分を出せると感じることが多い
  • 演劇には心理的成長の要素がある

…みたいな内容だったと思います。(もっといろいろ分析してた内容があったし,いろいろ結果も出てました。)


上記論文への感想以上レビュー未満。

さて,どこからコメントを書きましょう…。とりあえず調査計画を立て,実施し分析する…という順序に沿って書いていきたいと思います。
①調査対象者について
 この調査の最大の目的は「現役部員のみなさんが,演劇を通してどのような影響や変化をおよぼしているのか」(原文ママ。主語と目的語が??な感じがします…。“現役部員が別の対象にどのような影響を与え変化させているのか”という意味ではなくて,“自身が部活からどう影響を受けて変化したか”という意味合いで私は取りました。)という点です。つまり1年生の入部したての方にこういった調査をしても全く意味がなく,さまざまな経験を経た上級生に取った方が,目的に沿った調査ができるということが想像できます。
 現在進行形で「現役」の方を調査対象にした方が,タイムリーで生のデータを得られる…とは思いますが,本当に変化について言及するのであれば,3年生や既卒の方に絞った方が良いのではと私は思いました。自身の以前の様子を振り返って答えてもらう方法を回想法と言います。回想法には認知の歪み(記憶違いなど)が出てくると言われますが,私は2年生後期~既卒3年くらいの方が対象者としてふさわしいのではと思いました。
 ただ,年度の後期に取るとなると3年生は受験真っ最中,既卒生は現役の生徒さんや顧問の先生とのネットワークが必要になってくる…という難しさはあると思います。

②調査項目について
 いくつか調査項目がありましたが,項目として破綻しているものと要検討のものが多かったと思います。破綻している…と言わざるを得ないものは,ダブルバーレルになっている項目です。ダブルバーレルとは,1つの項目内に違うレベルの2つの質問が入っているものを指します。例えば,

「私は引っ込み思案だし,教室では一人でいた方が楽だと思う」(実際の論文の項目ではありません。覚えてないので…)

というような項目です。「引っ込み思案」なのと,「一人でいた方が楽」なのは全く別の問題であることがわかると思います。残念ながら2014年度のアンケートは,こういった項目が多く混ざっていました。これでは客観的なデータを収集できているとは言えないかなと思います。

 要検討のものは,成長を測る尺度です。「以前はこうだったが,今はこうなった」と言うための指標について述べたいと思います。
 
 まず時間軸について。論文では「公演の回数」と成長の度合いを見ていたと思いますが,年にどれだけ公演の機会を持てるかは高校によってかなりの差があります。大会の上位校になればその分大会にも多く出て公演回数も増えるでしょうし,中にはどんなに頑張っても年3回しか企画できないところもあると思います。そこへ「公演の回数が多ければ多いほど成長できる」という結果が出たとしても,公演回数を多く確保できない高校からしたら関係のない話になってしまいます。
 そこで,時間軸の尺度として「学年」を使用することはできないだろうかと思いました。「1年生の前期・後期,2年生の前期・後期,3年生の前期・後期」…の6期間に区切り,別の尺度と合わせて尋ねることによって変化が見えるのではないかと思います。(例えば《悩みを部内で相談するようにした》を「5.非常にあてはまる」~「1.全く当てはまらない」の5段階で聞いて,それぞれの期間についてどうであったか回答してもらう)

 次に,もともとのパーソナリティについて。演劇部の活動を通して「どれだけ成長したか」を測るためには,「もともとのスタート地点はどうたったのか」を測定する必要があると思います。例えば…良い例になるかわかりませんが,「1年間でA子さんもB美さんも身長が158cmになった」というデータがあったとします。しかしそれだけでは,これがどれほどすごいことなのかがよくわかりません。問題はいくつ伸びたかではなくどの地点からどう伸びたかだと思います。「1年前の身長が,A子さんは145cmでBさんは156cmだった」といった情報があって初めて,「A子さんは飛躍的に伸びた」と言えると思います。『成長したね!』だけでは,ただの主観的な感想に終わってしまいます。
 これを回避するためには,高校入学時のパーソナリティを測れる何らかの尺度を調査項目に組み込む必要があると思います。例えばその項目得点によって

   入学時のコミュニケーションスキル高群
   入学時のコミュニケーションスキル中群
   入学時のコミュニケーションスキル低群

の3群を作成し,各群とどれくらい成長したのかを測れる尺度を掛け合わせ,得点差に有意差があるかを調べる…ということができると思います。
(私の勝手な予想ですが,この3群を仮に作ったとして,成長を測る何らかの尺度の「3年生前期」から「1年前期」の得点を引いたものを分散分析にかけたら,入学時のコミュニケーションスキル低群の得点差は他の2群と比べて有意に高いと思います。そして得点差が一番小さいのは高群だと思われます…。)

③分析方法について
 この論文に限らず,得られたデータは最適な方法で分析されるべきです。今回の論文は,ほとんどの項目がχ二乗検定で分析されていました。χ二乗検定は連続した数値としてデータを収集できないときに用いられる分析方法ですが,果たしてこれが最適だったのか?という疑問が,読後に残りました。χ二乗検定は,『どこに差があるか』はわかりますが『どれだけ差があるか』はわかりません。差があることにどのような意味があるのかは考察次第になりますが,「どこに」より「どれだけ」の方が客観的な考察をしやすいと思います。
 今回の項目を見ていると,数値としてデータを取れたのではないかと思います。何らかの質問項目に対し,単純にあてはまるか否かで尋ねるのならχ二乗検定になってしまいますが,あてはまり具合(非常にあてはまる~全くあてはまらない)で尋ねるのなら3段階なり5段階で設定することができるので,数値化できます。数値化できればより多くの要素を分析できます。
 次回以降の実施・分析は,数値で取って数値で分析できるとさらに良いのではないかと思います。

④考察について
 目上の方に対してアレなのですが,考察部分を読んですぐに(あぁ…“先生”が書いた文章だ…。)と思ってしまいました。言い換えると,主観的だということです。“演劇部の活動によって心優しい人間になれる…”といった主旨の文章があったと思うのですが,そのあたりの根拠がどこから来ているのか示されておらず,客観的な考察になっていないと感じました。執筆者にそう言いたい気持ちがあったとしても,根拠がなければ想像の世界の話になってしまいます。あくまで論文なので,“言い過ぎ”には留意すべきだと思います。

⑤その他
 高校生は発達段階で言うと青年期前期にあたり,さまざまな価値観に触れながらアイデンティティを確立していく時期です。学校での教科学習・部活動・生徒会や,学外でのアルバイト,習い事,友人関係や恋愛など,いろーんな要素が絡み合い,個人として発達・成長していきます。進路選択とその実現も,成長の要素になってくると思います。
 何が言いたいかというと,高校生が成長する要素は部活(演劇部)だけではないということ。なので部活だけ切り取って成長を考えるのは難しいのかなと思います。だからこそ調査として扱う時間軸は公演回数ではなく生活の年月(1年生前期,後期,2年生前期…)として扱う方が良いのかなと思います。おそらく2年後期から3年前期が一番伸びる時期だと思うんですが,その時期の背景に何があるかを考慮した方が,考察しがいがありそうだなと感じます。


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…以上が,やっていることはとても面白いのに,その調査項目と分析内容がもったいない~!(><)と思ったあれこれと,その面白さを生かすための私なりの改善点です。

いかんせん現物がない状態で書いているので,非常に無責任です!すみません!でも書いちゃいました!ご意見はコメントやメールで承ります。アンケートを担当された先生方,アンケートに回答された皆様方,どなたでもどうぞ…。(おろおろ)
そして私自身は大きな分析を卒論修論の2回しかしていない,研究者としてとってもぺーぺーなニンゲンなので,分析方法についてはもっと良い方法があると思います。また考えついたら書き残したいと思います。


長くなっちゃいましたが,「高校演劇2万人アンケート」に対する私の感想以上レビュー未満でした。
小さじ1でもひとつまみでも,今後の調査・研究の一助になれば幸いです。

参考元:
<全国高等学校演劇協議会>

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